「TUGUMI」(吉本ばなな)

純粋で眩い光を放っている少女つぐみ

「TUGUMI」(吉本ばなな)中公文庫

大学生となったまりあは夏休み、
それまで暮らしていた
故郷の町へと帰る。
そこには従妹のつぐみがいた。
つぐみは病弱だったため
甘やかされて育ち、
意地悪で粗野で口が悪かった。
そんなつぐみは
大学生・恭一に
初めての恋をする…。

吉本ばななの初期の傑作長編小説です。
本作品の魅力はなんといっても
主人公・つぐみの
破天荒なキャラクターでしょう。
冒頭の紹介が強烈です。
「つぐみは意地悪で粗野で口が悪く、
 わがままで甘ったれでずる賢い。
 人のいちばんいやがることを
 絶妙のタイミングと的確な描写で
 ずけずけ言う時の勝ち誇った様は、
 まるで悪魔のようだった。」

しかし、決して性格が
ねじ曲がっているわけではないのです。
何に対しても誰に対しても
まったく遠慮することのない
正直さとでも言うべきでしょうか。

そうした彼女の性格が
最も良く現れているのは、
飼い犬ポチとのことが話題になった
場面でのセリフです。
「地球にききんが来るとするだろ?
 食うものが本当になくなった時、
 あたしは平気でポチを殺して
 食えるような奴になりたい。
 もちろん、あとでそっと泣いたり、
 みんなのためにありがとう、
 ごめんねと墓を作ってやったり、
 そんな半端な奴のことじゃなくて、
 本当に平然として
 『ポチはうまかった』と
 言って笑えるような奴になりたい。」

このセリフだけを聞くと、
なんてひどい子なんだろうと
思うのが当たり前です。
でも、もし本当に
そんな状況に立たされたとき、
「飼い犬を殺して食べて平気でいる」か、
あるいは
「飼い犬を殺さず飢えて死ぬ」か、
そのどちらかしか
「純粋」ではないのかもしれないと
思えるのです。
「あとでそっと泣いたり」するのは、
何かそこに嘘や言い訳のようなものを
感じてしまいます。
「仕方がなかったんだ」で
済ませてしまうような。
言葉の表面から推し量るだけでは
つぐみの心に
触れることはできないのです。

感性のアンテナを高く張って
つぐみの心をとらえていたのが
「私」なのです。
「つぐみの心や言葉よりも、
 もっとずっと奥の方に、
 つぐみのめちゃくちゃさを支える
 ひとつの光があった。
 その悲しいほどつよい光は、
 本人もしらないところで
 永久機関のように
 輝き続けているのだ。」

粗野で破天荒で気分屋で
ひねくれ者で不器用で、
それでいて純粋で眩い光を放っている
少女つぐみ。
語り手「私」の目を通して、
読み手である私たちもまた、
つぐみに強く惹かれてしまうのです。

「確かにつぐみは、
いやな女の子だった。」の
書き出しから始まる、
吉本ばななの文体もまた、
主人公・つぐみ同様、
強烈な引力を発しています。
感性豊かな日本語にあふれた本作品、
中学生にぜひ薦めたい一冊です。

(2020.6.2)

Jieun LeeによるPixabayからの画像

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